偽壺にご注意!
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  これは本物,この時代痕を靴墨で
再現するとはよく考えたものです。

 骨董品に偽物はつきものといってしまえばそれまでですが,紫砂壺ほど偽物が多い分野もありません。オークションや骨董市などでは,権威のある鑑定人がいないという理由から対象外となっているところもあるくらいです。明代から清初の有名作家ものがうぶで市場に出回る可能性は非常に少なく,もし簡単に売っていたりしたらまず偽物と思ってよいのではないでしょうか。

 さらに困ったことは,紫砂壺の贋作は非常にレベルが高く,中国の専門家が見てもだまされることがあるほどです。鑑定に関してはようやく中国で紫砂壺に関する研究成果ができてきて基本的な鑑定方法が確立されつつあります。 

 
紫砂壺の判定方法      

靴墨や紅茶・カビ付けなどで包漿・古色をつけていないか 偽もの 
no
作家の時代と土の特徴が一致しているか
(鉄鋼砂や黄色粒の混じり方など) 
 
偽もの          
yes
作家の得意とする茶壺かどうか
(その作家の同じ作品の伝世品が図録などにある)
まず偽もの
yes
落款が図録のものと同じである
(鈴印か釘彫りか,バランス・力強さ等)
偽もの
yes
全体のデザインやバランスに品がある
字刻装飾などを含め神韻がある
まず偽もの
yes
どこか一カ所でも雑なところがある
妙に重い
まず偽もの
no
基準壺(後述)と比較して,工具の癖などが一致 偽もの
yes
本物

包漿と古色
 長年使われてきた古壺の表面は,経年変化でつるっとして光っています。これを茶壺の世界では包漿と呼びます。あるいは,細かい傷やかけなどがあります。これが全くないとまず偽壺です。
 また,茶渋やカビなどが表面に付いていていかにも古そうに見えることがあります。これを古色と呼びます。
古色をつけた偽壺の制作方法
工程1
壺選択
約束通りであること
偽壺製作の最初は,どの時代の偽物を作るかです。まずベースになる壺を準備しますが,これが時代として矛盾しないかのチェックから入ります。まず,注ぎ口の内部が多孔の古壺はありませんし,明代のものを作るなら表面に加工のないシンプルなものを採用します。落款に最近の制作年が入っているもの(たとえば,戌亥などと)も避けます。
また,タタラ作りのものを採用するのも素材選びの基本的なポイントです。また,落款にも注意してください。
工程2
包漿付け
表面を磨く
細かい番手のサンドペーパーで表面を削り使い込んだ感じにします。
細かい傷や,小さなホツをつけるなどと言う工夫も必要です。傷のない古壺はまずありません。
従っていかにも使い込んだように,小さな傷を付けたりするのがポイントです。
工程3
濃いお茶で煮る
古色付け
非常に濃いお茶で煮ます。普通紅茶をつかいます。表面をサンドペーパーで削ってあるので,かなり急激にお茶がしみこみます。
工程4
磨く
ここでお茶から出して照りが出るまで一生懸命磨きます。
工程5
お茶につける
養壺と違うところは,このあと,2週間ほどお茶の中に入れっぱなしにします。煮る必要はありません。これにより,お茶自体にかびが生えてきます。壺の表面や内部にも黒いカビがつくように気を使います。注ぎ口の中が真っ黒になるまでつけます。
工程6
仕上げ
完成させたい古壺のイメージに合わせ,仕上げに入ります。たとえば,普段手にふれないような部分を黒く残し,磨きやすい部分は,肌を残すように磨き,注ぎ口の部分を靴積みなどで,茶液が滴って染みついたような感じにします。また,仕上げによっては,少し土の中に埋めておくか土をすりこみ,ほこりが染みついたかんじにすることもあります。実際に,骨董市などで泥だらけのものを見ることがあります。
偽壺のチェックリスト
 
このチェックリストに一つでも該当すれば,まず偽壺だと思って良いと思います。
一番簡単ですこし見る目が出来れば分かるのが土です。極端にいえば,土の中に,黒や黄色の粒が見えれば,古壺である可能性が高いです。
1.全体的に品がない。作りが雑。外側は非常に時代がついているが,内部はきれいなまま。
2.図録などで今まで見たことのないデザイン。妙に大量に在庫がある。
3.値が異常に安い。あるいは定価は高いが,むちゃくちゃ値引く。・・・だから偽ということにはなりませんが!
4.見た目は古いのに,現代作家の落款がある。または時大彬などの手掘りの款が下手なもの。逆に本人よりうまいもの。
5.明の壺で「宜興」の款がはいっているものはない。
「荊渓」款は清初に多い。「宜興紫砂」の款は,清中期以降。大部分は清末民初。
6.落款の年号が若いもの。(戌亥年春などという制作年月が入っていれば必ずチェック)
7.ろくろで作ってあるもの。(中を指でなぞると継ぎ目が無い)・・・備前など唐物写しである可能性あり。
8.中の注ぎ口が単孔でなく,複数の穴があいている。(多孔ものは民国以降。)特に小壺で多孔のものおよびいわゆるゴルフボールは現代。
9.使っている泥に時代毎の特徴がある。(これをマスターすると鑑定としては一番良い方法)
10.作家毎に得意分野があり,自然壺をつくらない作家の款がある自然壺などは???
基準壺とのチェック

 最近中国大陸では,他の古美術品同様,学者や研究家達により,茶壺の真贋鑑定法が確立されてきました。その方法とは,各作家や典型的な形の基準となる茶壺を定め,これを基準壺(スケール)として胎土の質や作家の落款,使用した道具の特徴跡などから,真贋を判定する方法です。

 基準となる茶壺は,墓からの出土品です。つまり,明の作家時大彬の真贋を判定するためには,時大彬が活きていた頃に埋葬された墓から出土した時大彬の壺が基準になり,これと比べて異なる点のあるなし,土味の違いなどから真贋を判定します。当時埋葬された墓に,何十年後かに偽壺を副葬するとは通常考えられませんから,当時埋葬された墓から出土した茶壺は,本物であるというのが基本的な考え方です。
主な出土茶壺(基準壺)
壺名 出土場所 墓誌 落款 現在保管場所
加彩合桃壺 1959年杭州半山機械工場用地の墓   王倫 シ折江省博物館
提梁壺 1965年南京中華門外馬家の墓 1533年   南京博物館
圓壺 1965年鎮江市水泥工場用地の墓   用口製 鎮江市博物館
圓珠壺 1965年江蘇省丹徒県辛豊山北公社前桃村古井戸     鎮江市博物館
時大彬 
  
六方壺 1968年1968年に江蘇省都県丁勾鎮の曹家の墓 1616年   揚州博物館
三足円壺 1984年無錫甘露郷の華家の墓 1629年 大彬 無錫県文物管理委員会
紫砂蓋円壺 福建省章浦県の廬家墓 1610年 大彬  
漢方壺 1973年鎮江市林隠路陶瓷工場用地墓     鎮江市博物館
加彩圓壺 1975年山西省劉家の墓 1800年 境媚清香  
曼生壺 
    
竹節壺 1977年上海市金山県王家の墓   曼生 上海博物館
三足扁壺 1986年江蘇省准安市王家の墓   曼生彭年 准安市博物館
樹庄壺 1979年無錫市陽家の墓     鎮江市博物館
四系直筒壺 1978年鎮江市句容県春城公社      
錫包壺 南京市張家村 1851年 楊彭年 南京博物館
四系扁壺 無錫県東湖     無錫県文物管理委員会
鳴遠壺   圓壺 1990年福建省   陳鳴遠 章浦県博物館
孟臣壺 広東省    
*本資料は,山東科学技術出版社発行の「紫砂壺」その他を参考にさせていただきました。