紫砂壺の装飾

紫砂壺の基本はそのシンプルで上品な造りですが,茶壺を飾る装飾方法もいろいろあります。
清朝の乾隆年間をピークに独特な装飾の風格を形成しました。
特に書画を本体に刻んだものは,壺自体の美しさと中国書画の文人趣味的な美しさがマッチして,茶壺を実用品から美術品に高めています。

壺の装飾方法

調砂(梨皮)

 紫砂の肌のきめを変化させて装飾効果を出す方法で普通は砂の調合により,「調砂」,「舗砂」,「絞泥」というやりかたがあります。

 調砂の典型的なものとしては,紫砂の生地中に,粒状に砕いた焼いた土(これは焼いた際に歩留まりでうまく焼けなかったものの欠陥品や制作時の土の切れ端を焼いて作るそうです)を入れたり,異う色の土をまぜて使ったりすることで,有名な「梨皮」や「鯊皮」,「満天星」など各種の肌のきめの効果を出すやりかたです。
水摩装飾

 壺の表面加工法の一種で,研磨剤を利用して砂の表皮を平均的に磨き上げ,最終的にフエルトで磨き上げるという段階を踏むことで,ガラスの様な光沢になります。

線の模様を入れる

灯草線,子母線,雲肩線,でこぼこ線,皮帯(ベルト)線、へこむ線,抽角線,折れ線などがあります。ウシの角や鉄・木の物差しで加工します。
彫塑を施す

 
彫塑装飾とは,蓋のつまみの部分や足の部分に花びら,鳥獣などをデザインして実装する方法です。これに浮き彫りを加えて飾ることが普通です。
泥絵の装飾

泥絵装飾は乾隆年末まで盛んに行われていたもので,本体と異った色の泥水で壺の表面に書画を制作する方法です。

題材は花鳥・山水や詩文などです。

泥で装飾を描くのは本体の生地が完成した後で行うので,やり直しがきかず,書画の基礎的な技能や,泥の性質に対しての基本的な知識が必要。つまり焼いた際に,本体の生地材料と描いた泥絵具の収縮率を理解していないと失敗するそうです。
印貼装飾

 

 

 印貼装飾とは「印紋装飾」,「印貼装飾」,「群装飾」と「透かし彫り手法」などの総称をいいます。
 事前に設計した装飾紋様を陶器や木製や石の型で型を作り,これをすでに成型した生地の上に押すことで統一的な装飾の効果を出すものです。この技法は青銅器からきており,「如意雲紋」,「バショウ葉の紋」,「セミの紋様」,「コイの紋様」,「龍鳳紋」,「水波紋」など様々なものがあります。

彩釉装飾

透明な釉をかけてからエナメルで装飾している

  いったん焼いた茶壺の上にエナメルで「花びら」,「山水画」,「芝居の人物」等を描くものです。顔料は七宝焼きのものと同じです。
 描き終わったら更に750から800度で2度焼きを行ない完成させます。

また,擁正年間には,宮廷で宜興の紫砂胎に長石釉系の透明な釉薬をかけ,その上を琺瑯彩で飾ったものなども見られます。

皆釉装飾
 
 紫砂壺に釉薬をほどこしてあります。
宜興の釉薬は,左の写真のような北宋時代の鈞窯で使われていた,銅の入ったどろっとした釉薬です。これは俗に炉鈞釉とよばれています。また,宜興の鈞窯釉ということで,宜鈞と呼ばれることもあります。特に下の釉薬を日本では海鼠(なまこ)手と呼び,このような水注だけでなく,宜興の火鉢などにも使われています。


宜興の紫砂胎に釉薬をかけたものの是非は昔から論じられていますが・・・皆さんはどうお考えですか。

堆朱装飾

いわゆる堆朱(漆を何重にもかけた上から刻装飾をほどこすもの)で明代にはお盆や重箱などに名品があります。

この堆朱の装飾技法を紫砂の上につけたもので,おそらく北京の宮中工房が最初に行ったものではないかと思います。
現在「時大彬」製のものが,北京故宮博物館にあり,2002年夏の台北故宮では別のものが展示されていました。
  
象眼

 
紫砂器の上や取っての部分に金銀などの貴金属・玉・真珠や宝石・象牙を象眼したものです。豪華でな感じが出るので,最近でも制作が行われています。
刻画装飾
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 紫砂壺の腹や蓋の上に書画を刻み込む装飾法です。これは今でもメインに行われている装飾法で,有名な書画作家のものは,作家もの以上ににコレクタ−ズアイテムとして,もてはやされています。

 焼く前の完成した壺に,書画家が筆で下絵を描き,これを彫り師が薄い彫刻刀を使って刻んでいきます。書画家の描いたものをいかに彫っていくかが彫り師の腕の見せ所で,筆の運びのスピード感をいかにうまく出すかが,作品の善し悪しを決めます。

 また,書画だけでなく,花柄の装飾模様とか,篆刻などを彫り込んだり,削った中に別の色の土を入れたりします。
包錫装飾

 紫砂胎の上を錫でまいて装飾したものです。包錫壺は,嘉慶から道光に特有のもので,当時の文人趣味にあいまって流行しましたが,いかんせん重く実用性はもうひとつのため,その後はあまり作られなくなりました。図下の錫で龍などの図柄装飾をしたものは,光緒特有のもので他の時代には全くあらわれません。



  
複数土 ・象嵌
最近は,このように,複数の種類の色をブレンドして模様にだすような装飾方法も,工芸美術大師「呂尭臣」がはじめました。
複数の色を使って模様をつける方法は,韓国李朝の青磁などが有名ですが,それぞれの土の焼成の際の収縮率などで高度な技術が必要です。

下のものは,あわせ技で,はすの葉に見立てた段泥系の土を象嵌し,さらに,水滴に見立てて,ガラスが入っています。
覆輪
覆輪とは,注ぎ口や釦・蓋端などを金属で覆う装飾方法。宋の定窯のものによく見られます。
宜興紫砂の場合,この装飾は主として,タイで行われました。
宜興からタイに輸出された後,大部分は磨光され,このような金覆輪をつけられて王室や貴族のところに納められたのでしょう。

       上海人民美術出版社「宜興紫砂」を参考にさせていただきました。
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印は,上海人民美術出版社「宜興紫砂」より(一部トリミングしています)