良い茶壺とは・・・

よい茶壺とはなんでしょう。

一般的に包丁など道具には,良し悪しが存在します。包丁の場合は,よく切れることかもしれません。茶壺も道具ですから,良い茶壺とはおいしくお茶がはいるということかもしれません。
これはあたっています。
ただ,茶壺の良し悪しはおいしくはいるということだけではありません。実用性・機能性以外に視覚や肌触りなど道具を愛でるという茶陶や鑑賞陶器という観点からの良し悪しがあります。機能だけをとりあげるなら,しょうゆ指しでもお茶ははいります。

 日本人は伝統的に茶道具に対して,中国人以上に思い入れがあります。茶陶というものは,みな家宝として代々受け継がれています。良い道具は,見ていても楽しく,また良い道具でいれたお茶は,よりおいしく感じるものです。
 静かな場所で香をたき,大事な道具でとっておきのお茶をいただく・・・茶人にとっては至福のひとときでしょう。

良い壺(活壺)と悪い壺(死に壺)

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茶壺1

茶壺2




左上側の茶壺1と下の茶壺2を比べてなにか違いを感じていただけるでしょうか。左上の茶壺は,清朝の古壺ですが有名な作家ではありません。茶壺2は,茶碗とセットで売っている土産物の茶壺で型出しの量産品です。土産物の茶壺と,上の茶壺を比べてなにか違いが分かるでしょうか。年代とか,値段の差・写真写りの差といったことだけでなく,品格のあるなしを感じていただけませんでしょうか。
 下の茶壺は,ただ急須の形をしたものという感じがします。下の茶壺からは偽壷のようなだまそうとする悪意も,大事につかってもらおうという善意もどちらもかんじられません。上の茶壺は,長年大事に使われてきたということで,製作者だけでなく前の持ち主のぬくもりも感じられそうです。古物有霊といって,ただの道具というものから一段上の存在になっているといったらいいすぎでしょうか。とにかく土の焼き物といった以上の品格があります。

一目見たときに伝わってくるこの独特の品格こそが,良い壺(活壺)かだめな死に壺かを分けるポイントであると思います。
世の中で最悪のもの
それは,悪意のある茶壺です。
茶壺に意思があるわけではありませんから,茶壺に悪意があるというより正確に言えば,茶壺を作った人(作者)に悪意があるかどうかです。
悪意を持って作られた茶壺は,お茶がおいしく入らないだけでなく,せっかくお茶を楽しむ時間自体を台無しにしてしまいます。

 悪意のある茶壺。それは偽壷です。ところが,残念なことに,市場に出回っている茶壺の8割以上は,この悪意のある壷なのです。(毒壷とでもいいましょうか。)
宜興の近くの農民が,お金ほしさに見よう見まねで,土管に使うような土で作ったもの(宜興の道路沿いで売っているのは皆これ)から,コンピュータNCなどを使って,巧妙に作った名人茶壷の偽者。
今出来のものに,古色をつけて古壷と偽っているもの。これらは皆最悪の毒壷だといえます。

 世の中に茶壺の掘り出し物なんてありません。中国工芸美術大師(日本で言う伝統工芸師とか人間国宝)のものが数万円で買えるわけがありません。
落語にある見世物小屋で「これは義経の若いころのしゃれこうべだ」というのと同じで,若いころの顧景舟作品や,周桂珍作品なんて残っているわけがありません。

皆毒壷です。くれぐれもご注意ください!

 

新品の茶壺・機能でチェックするならこの4つの観点を!
(1)基本機能(道具として使えるか) (2)扱いやすさ(重心・重さ・バランス)
基本的に,実用性の観点からはひび割れや傷がないということです。


 茶壺の傷をチェックしましょう。 内部のチェックも必要です。指を入れてチェックします。水漏れなど基本的なこともチェックします。まさか傷なんてないだろうなどとおもってはいけません。焼き物は歩留まりが悪いのです。また,輸送途中の衝撃も傷の要素になります。
 小さな傷があると,お湯を入れたときに割れてしまうことがあります。

 すでに傷があるものは,蓋の釦部分(丸い部分)で本体を軽くたたくと,ぼそ!という妙な音がします。(あまり強くたたくと店の人にしかられますよ!・・特に台湾では)
お店で手にとって買うのでしたら,20倍くらいの虫眼鏡でチェックするのがよいと思います。(古壷は別にチェックポイントを挙げていますのでそちらをご覧ください。)

水漏れ,水だれ
次に蓋と壺身に隙間などがなく,一体感があるもの。壺本体に蓋をした状態で,すかすか動くようなものは避けるべきです。水の出がよく,本体からのたれが少なく,10センチから20センチくらいで水を出して,急に止めてたれもなくぴたりと留まることが基本です。


全体のバランス
 これはネットショップなどで実際に手にとってチェックできない場合には有効です。実際に触ることができませんから,写真のバランスを見てください。よい茶壺はどこをとっても安定感があります。把(取っ手)だけ妙に細いとか,注ぎ口と,取っ手が変な方向を向いているとか,見た目が変なものは,使っても変です。私のHPの「宜興茶壺の基本的な形」に載せているものはみな定番のものばかりです。まずは定番のものを買いましょう。まず一着のスーツは,グレーか紺の無地からですよね!

重心
 茶壺の重心位置も重要です。取っ手を持ったときに妙に重く感じるものは,実際に使うときにはさらにお湯が入るわけですから,あまりお勧めできませんね。
重心がアンバランスなものは使い勝手が悪いだけでなく,デザイン上も良い壺とはいえません。

胎の厚さ
 胎土の厚みも重要な観点です。一般的に土の密度が高く胎土が薄いものは,保温性が悪く,熱がすぐに逃げます。逆に熱が逃げるので,香りが非常に立ちます。この手の薄手の胎で淹れたお茶は華やかなものになります。逆に厚めで胎土の密度が低い物は,保温効果が高く,この手の茶壺で淹れたお茶は落ち着いた感じになります。お茶の葉によって茶壺を使い分けるという人がいますが,この観点は形とともに重要です。

蓋と本体の組み合わせ
また,蓋の孔を指で押さえて水がきちっと止まるということも基本です。
買う際に水を入れてチェックします。水漏れや,注ぐ際にたれが多いものはだめです。
特に,水平の原則ができていない物。つまり注ぎ口が本体の線より下にあるものは,本体にあふれるまで一杯に水を入れたときに,嘴(そそぎ口)から水がでてしまうものもあります。工夫茶で使う場合は,よろしくありません。

現在私の持っている現代の茶壺の中では,
どの観点からも申し分ないもの。
欠点を指摘する部分がないです!
こんな茶壺には10年に一度くらいしか出会いません。
(3)焼き上がり (4)材質・仕上げ
茶壺は焼き物ですから,焼き加減というのは重要な要素です。焼きすぎず,限界まで焼き締まっているものを選びましょう。よい茶壺は,大きな岩を削りだしたような感じがします。

焼き上がりの状態
 焼きが甘いものは,素焼きの植木鉢のようなぼそっとしたやわらかそうな感じがします。逆に焼きすぎ(最近は窯の性能がよいのでこれが結構多いのですが・・・)のものは,金属的な感じがします。たたくとキーンという金属音がして,最悪音がサステイン(残響)します。もうこれはだめです。10年たっても養ちません。

焼成温度
 見ただけでは,最初のうちはわからないものですがほぼ上の「硬さ」と同じようなものだと思ってください。
また,焼成温度も大切です。焼いた時の温度が低いと最悪水がしみだし漏れがでます。実際に見ただけではこれはわからないのですが,水を入れて30分から数時間置いておくと,周りが漏れた水でぬれているというのがあります。
また焼成温度が高すぎると,締めすぎから割れやすくなります。ちょっと蓋があたっただけでわれてしまったりします。金返せ!ですね!
使われている材質つまり土自体も重要。茶壺の場合ほとんどは原材料土100%ですが,これが必ずしもそうでもないので面倒なのです。

成分
 中国から正規に輸入手続を取ったものは,成分分析などを行う輸入手続で合格したものですが,個人輸入のショップなどはこの手続きを行っていない場合があるので注意が必要!妙なものが入っているものがたまにあります。輸入許可関係のHPでは,焼き物でも不合格で通らなかったものが公開されています。色を出すために妙な化合物を入れていて,結果として有害反応が出るとか・・・
茶壺も成分分析表などを表示してもらいたいものです。ただ少数のものを正規輸入手続をすると,茶葉と一緒で採算が取れなくなってしまうのですが・・・
特に心配なのがです。茶杯など釉薬をかけてあるものは,中に鉛が入っているものが多くあります。これは,鉛を淹れることによって温度が低くても焼けるようになるからです。

仕上げ
 紫砂というものは,焼きあがったばかりで何もしていないときには,曇りガラスのようなかんじです。これが磨くことによって,あの玉のような輝きがでてくるものです。作家ものなど超高級品は別ですが・・・作家さん達が作ったものの表面が最初から輝いているのは,その仕上げ方が違うからです。つまりたたいたり,道具でこすったりして表面を加工しているからです。これは私たちが子供の頃に遊んだ泥団子を想像して下さい。丁寧に作った泥団子は表面に薄い膜のようなものが出来ます。作家ものも長い時間をかけて作ったものには,この膜が出来ています。これを焼くと最初からすべすべした状態になっています。
しかしながら私たちが手にする一般の茶壺で,最初からガラスのように光っているものは,おそらくだめです。材料がだめ,つやがないので蝋を塗っているなど・・・
 土の質も重要ですが,これは最初のうちはどのような土がよいものかは判断できないと思います。いずれにせよ,最近はどの土も五十歩百歩ですからあまり気にしないことです。

一生ものの茶壺・本当によいものを欲しいなら!
神韻
神韻
 神韻とは,説明するのが難しいのですが,茶壺自体が持つ風格といったところかもしれません。

本当によい茶壺というのは,神韻がある茶壺なのです。茶壺の良し悪しを論ずるときには機能面を重視しがちです。たとえば,水切れがよいとか,蓋に遊びがなく,ぴったりしているとか・・・
でも,そういったことだけがよい茶壺の条件とは思いません。茶壺はミクロンオーダーの正確さで作られた工業製品ではないのです。

 茶壺のメンタルな部分(というのも妙なはなしですが)が重要なのです。古壷の一部のようにたとえ,機能的にはだめな茶壺でも,神韻があるものは私にとってはよい茶壺です。逆に,機能的に申し分なくても神韻のないものは,使う気になりません。

 茶壺が持つ風格といえば,やはり古壷に勝るものはありません。私は古壷オンリーではありませんが,(世の中の茶壺コレクターの大部分は古壷オンリー)やはり,現代の作品で風格を感じるものは,本当に少ないです。出来の良いものはいくらでもあります。造りの精巧さでは,現代の作家ものは相当な水準です。でも,神韻を感じるものは少ないです。

 
中国語圏では,茶壺のコレクターが多くいますが,中でも台湾の茶壺コレクターは,皆古壷を欲しがります。それは,中国人のDNAに書かれた神韻に響くものがあるからでしょう。

 日本の茶人たちは,ほかの国には見られない特徴があります。それは「できの悪いものを愛でる」ということです。美術鑑賞眼とはちがったものの見方です。たとえば,発色も器形も悪い,ベトナム(安南)の染付け茶碗を名品といったりします。味があるとか,景色が・・・という類です。煎茶の世界にも,でっち具輪(ぐりん)といって,いびつなものを至高の作品といって愛でたりしています。

私は,この手の茶人的な感覚を肯定するものではありませんが,(つまり出来が良くて神韻があれば,出来が悪いものより良いという考えです。)
機能をとるか,神韻を取るかという観点では,神韻だということです。

難しいですね!
博物館や図録で歴代名家の作品を穴があくほど見て,審美の眼を磨くしかないと思います。ある日突然,見えてきたりします。


神韻のある茶壺
右のものに比べ品格がある
( 邵景南:清朝末期)

一見よさそうだけど
実は気持ちの悪い茶壺
微妙にバランスが悪い!
文心
文心とは,文人墨客(詩人,歌人,小説家,学者,画家,陶芸家など)たちの茶道趣味に会うものであることを指します。茶壺は,昔から文人趣味とともに発展してきました。

清朝の陳曼正らが茶壺に文人趣味を入れてデザインして以来,茶壺は文人趣味の香りがするものなのです。

濃茶の茶人たちの観点とは別に,江戸から明治の煎茶家が宜興紫砂器を宝物のように珍重したのもこの文人趣味からきています。宜興の茶壺でお茶をいれ,唐物の古玩(骨董品)を賞玩し,文房具をおいて揮毫する・・・
 
こういった書斎の道具として,宜興茶壺はまさにベストマッチなのです。

そういった単に茶道具としてだけでなく,文人趣味をくすぐるものとして文心のある茶壺はよい茶壺であるといえます。