三平の原則があること
 宜興製の茶壺には「三平の原則」というものがあります。三平の原則とは,茶壺を横にしてみると,嘴(そそぎ口)と座(胴体の頂上部分)と把(取っ手の頂上部分)の3点が一直線で水平になっていることです。紫砂壺が水平壺と呼ばれるのもこのためです。左図の赤線をごらんいただけば一直線になっていることがおわかりいただけるとおもいます。


 なぜ水平壺というかというと,お湯を満タンに入れた状態で茶壺をおふろをつけるような状態にして水の中に入れても傾かず,水平を保つことを保証するという意味です。清朝の嘉道期から民国初期までの工夫茶用の小さな茶壺の蓋裏にはわざわざ「水平」という文字が入っているものがあります。
紫砂器の特徴

把手の位置が後ろ手であること
 急須の把手は,後手か,上手です。日本の急須で一般的な横手のものはまずありません。上で述べた水平のデザインとこの後ろ手によって,宜興茶壺は実に無駄のない,美しいフォルムを作り出しています。特に,後ろ手であることによって,茶壺を真上から見たときの美しさは,宜興ならではのものです。

釉薬を使わない陶器であること
 宜興茶壺は基本的に釉薬を使いません。宜興茶壺の土は五色土と呼ばれ,様々な色がありますが,釉薬によって色をつけるのではなく,朱泥,紫泥,烏泥など土そのものの色です。陶器であることと,釉薬を使わないことによって,胎は磁器化(ガラス化)することが無いため,宜興の土特有の気孔とよばれる胎の間の空間ができ,これが宜興の「お茶を美味しくする」というマジックのタネにもなっています。一般的に景徳鎮などの磁器は,胎・釉ともにガラス化して全く水も空気も通しませんが,宜興は陶器であることと,気孔とよばれる独特の特徴によって,水もれはしないが,蒸気は通すという世界でも類をみない独特の特徴となっています。


ろくろを使わない打身筒という制作方法であること
 宜興茶壺のもう一つの大きな特徴はタタラ造り(打身筒,パンパン造りともいいます)と呼ばれる,平らにのばした土を叩いて成形するという方法を取っていることです。これは他の国はもちろん中国でも他の窯には無い特徴で,右の写真のように平らくのばした土をベースに全ての作品を作っています。釉薬を使わないため,長年使った宜興茶壺は,お茶の成分が茶壺にしみこんで,日本の萩焼きのように,土味となって楽しみの一つにもなっています。
景徳鎮などで作られる磁器の急須はだいたいの形を出してからろくろをまわして,ナイフのようなもので削りながら形を出していきます。これに釉薬をかけ高温で焼くため,胎・釉ともにガラス化しまs。これにより,水分も空気も全く通さず,長年使っても当初の光沢を保ちます。

 ただし,現在生産されている宜興の量産品は,安価に質の高いものを生産するため,型出しとよばれる型に泥板を押しつける方法で成形しています。

宜興茶壺の製作方法
打身筒 タタラ作りと呼ぶ,泥板を巻いて丸みをヘラで叩き出して作りだす方法です。茶壺の大部分はこの方法です。
身筒 様版と呼ばれる泥片を切り出し,これをはめ合わせて,作ります。方形壺はこの方法で制作します。
轆轤法 台湾の茶壺や景徳鎮の磁器茶壺などで採用される
陶輪 ごく初期の紫茶壺に使われている,手捻りの方法です。
泥片接法 自然形などで使われる泥片を組み合わせて作る方法です。
型出し法 型から出して作る方法で,文革時期以降量産品に採用されています。

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紫砂壺製作の道具 打身筒

茶壺の形から分けた分類
筋紋形(きんもんけい)
この形態の壺を,筋紋壺と呼びます。これは,植物の葉の筋や花弁をイメージした壺です。

制作には他の幾何形や自然形に比べて高度な技術力が必要となります。制作が大変なため一般には型を使って筋をつけますが,右の茶壺はエッジのついた工具ですべて手作りで制作したものです。
蓋から本体にかけての筋がどのような蓋の閉め方をしても,一線になっているのが良い壺といわれ,筋紋形の醍醐味です。

幾何形(きかけい:光貨)
 幾何形は,もっとも一般的な紫砂壺で,このように方形のものや球形のものだけでなく,長方形,菱形,円柱形,その他の幾何学的な模様があります。
左の方形のものと,右の球形のものが作り方が違うことからこれを分けて,4分類とする人もいます。





自然形(しぜんけい:花貨)
 
これは,梅の幹やカボチャ,蓮の花,桃などの果実,動物など自然の器物をモチーフにしてデザインしたものです。また,鞄や自動車なども最近は多いようです。超リアリズムを追求したものが多くあります。

博古
(古代の器物)
青銅器制の鼎など
自然物 カボチャ,桃など
実用器物 升とか,鞄・かごなど