新安沖の龍泉窯
   
   
 韓国に行って来ました。目的はキムチ・・・ではなく,1976年に韓国の南端「新安」沖で発見された中国元代の沈没船から出た2万点にのぼる中国青磁を見に行くことでした。一般的には新安沖海底遺物と呼びます。当時このあたりの漁師の網に中国青磁がいくつもひっかかったところから発見されたものです。
実は,83年に一度新安海底遺物は日本に来ています。残念ながらそのころ青磁には興味が無く,見ていませんでした。当時は今世紀最大の宝物の発見などと評判になったそうです。
どこにある?
 さて海底遺物ですが,その内容は日本からの注文で中国から納品するための龍泉窯と景徳鎮を中心にした青磁と青白磁が中心。ですから,当然韓国にとっても国宝級。国宝となれば,ソウルのナショナルミュージアムにあるものとばかり思って,ホームページなどで検索したのですが,どうもなさそう。焼き物の本をめくっていたら,光州(クアンジュ)という町の国立博物館にあるということが分かりました。その後,インターネットなどで検索をしていたら,さらに光州の先の木浦(モッポ)というところの海底遺物展示館に移設されたという情報を発見。
でも,国立光州博物館のホームページにも載ってるし???
いったいどこにあるの?というのが今回の旅の一番の難題でした。せっかく韓国まで行って,見られないまま帰ってくるのは避けたいですよね。



焼きあがったばかりのような新安遺物

 どうもここからは判じ物というかどれが正解か分からなかったのですが,光州と木浦にいけばokだろうということにしました。結果からすると,引き上げられた2万点のうち,一番良いものはソウルへ。残りのもので美術的に価値の高いものは光州博物館へ。その他の舟そのものや,日常品などを木浦の海底遺物展示館にという3カ所分散したというのが正解でした。ただし,現在ソウルの中央博物館は,仮住まいのような形になっていて,海底遺物は常設展示されていません。従って,新安海底遺物の一番良いものは,見ることができないというのが現状です。
 






日本展示の際の図録
ツァールート作り
 ということで,光州と木浦に行くことにしました。幸い,2つの町は80kmくらいしか離れておらず,1日でいけそう。さらに調べると,その木浦からさらに1時間くらいの康津ところに,高麗時代の官窯跡があるということもわかり,そこにも行こうということで,ほぼルートができました。光州をベースにそれぞれ1時間半くらいで見に行けそうです。康津官窯跡にも青磁博物館があるらしくこれもたのしみ。
旅行のたのしさは,このルート作りが一番おもしろいですね。
ソウルへ
 仕事以外で中国語圏以外の国に行くのは実に久しぶり。最近なんぞ,台北や上海についても,全く外国に来たという感じが無いのですが・・・
ソウルは初めて!チケットを探すと,これが結構安いです。どうして上海線はあんなに高いんでしょうね。ただし,格安チケットなので,ソウルから木浦への国内線のチケットは現地調達。当日は8:50成田発で,もう昼にはソウルのホテルにチェックイン出来ているという状況。近い!
 光州への移動はあすのチケットなので,初日はさっそくソウル骨董屋めぐり。地下鉄があるので便利です。といっても字も読めないし,聞き取れないので,ガイドブックの路線図をだして,あと駅いくつ!という小学生のような乗り方でしたが・・・・
 ソウル市内には,3〜4カ所骨董街があり,今回は時間もないので,踏十路というところを集中してまわりました。ここには,100件以上の骨董屋があつまっています。ひととおり見たのですが,中国の地方の骨董街とおなじように,中国ものはゴミばかり。残念!と思っていたら最後に一件だけちゃんとしたものを売っているお店に出会い,ここで半日骨董談義をしました。(日本語!)

 鈞窯系のお皿と染め付けの皿などを購入。一番良かったのは,清朝末期の扇子。これはすばらしい。値段もそれほど高くなく,今回一番よいものでした。骨部分は完品なのですが,糊が一部とれているので,どこかで修理をしてもらわなければ!


ソウルのインチョン新空港
さて,どのバスに乗ればよいやら!
しばしガイドブックとにらめっこ。

踏十路骨董街


中国ものの専門店にて 韓国初めての友人
崔さんご兄弟。コピ(コーヒー)をごちそうに・・・

いただいたお二人の旅行記
サインまでしていただきました。
光州(クアンジュ)
 翌日ソウルから飛行機50分で,最初の目的地光州に到着。ホテルにチェックイン後さっそく光州博物館へ・・・ホテルのおねーさんに,ハングルで博物館までというのを書いてもらい,それを見せてタクシー。待ちに待った新安龍泉窯とご対面です。博物館は,きれいな建物で光州の郊外にあって環境も抜群。残念ながら,博物館内は撮影禁止でしたが,ほとんど見学者がなく,龍泉博物館同様ほぼ独占状態で龍泉窯を満喫できました。新安遺物は日本向けの商品だったこともあり,実に日本人好みのものが多いです。龍泉窯は,元代のものが多く天目碗や壺・水滴などもあり非常に状態がよいものでした。新安遺物は木箱に入っていたこともあり,カセ(長い間,海砂などにさらされたために,曇りガラスのようになって,艶がなくなること)もなく,ほぼ焼いたままの状況。ただ,有名な鯱耳の双耳壺と,南宋官窯風のものは展示されていませんでした。その他としては,定窯か時代的にはすこしずれますが,哥窯風のもの?もありました。鈞窯風のものは,ちょっとちゃちな感じで,これは今では金華窯ではないかと言われています。
秀逸だったのが景徳鎮の青白磁。陰青です。大きめのものも結構あってこれはもう本当にすばらしい!堪能しました。
残念ながら新安遺物だけの図録が無く,博物館全部のものと,絵はがきのみ。でもまぁ絵はがきを何セットか買って,第一目的はクリアです。




待ちに待った光洲博物館。堪能しました!

光洲博物館の図録

新安沖遺物の絵葉書
韓国の茶館
 夕方にかけて市内のケミ通り(芸術の道)骨董街に行きましたが,ソウル同様中国ものはもうごみばかりでなにもありませんでした。
その通りにお茶屋さんがあって,そこはおねーさんが英語okだったので,お茶をのんで時間を過ごしました。ちょっと中国系の味に近い緑茶でした。ちなみに,韓国産のウーロン茶というのがあって,これも試しに買って帰ったのですが・・・むかし中華街で売っていたような,単なるウーロン茶という味しかせず,おみやげと思って買ったのですが,そのままほうってあります。


典型的な韓国茶道具
右上はお湯。真ん中はピッチャー

かなり上質の白磁
茶杯と茶宅のみ譲ってもらいました


この写真が韓国の基本セット。ピッチャーに移して飲みます。また,ここでは白磁の実に薄い口当たりの良い茶杯があってこれもちょっと高かったけれど購入。急須は,韓国の横手のものにまじって,これもどこにでもある,練り物宜興風や,台湾茶壺が一部おいてありました。


光洲の骨董屋


同じく青磁を売る店
(それほど高くないです)
木浦(モッポ)
 翌日は木浦。日本から日本語の分かるタクシー運転手を!と,メールでお願いしてあったので,片言ですが日本語のできる方がついてくれました。ちゃんと厚い辞書をもってきて,かたことながら誠意を感じました。韓国の人は良い人が多いです。木浦の海底遺物展示館まで,光州のホテルから1時間20分くらい。
海底遺物展示館は海に面したきれいな建物。日本でもよく海岸近くに立っているような博物館です。ただ,この時期遠足の季節らしく,観光バスに乗った小学生が何百人もいたのは閉口。
 新安海底遺物は,2階。ランクは落ちますが,結構龍泉窯などもほぼワンスパンは展示されています。大きめの皿や,香炉など上手のものもありました。ここも写真禁止だったのですが,運転手の徐さんが交渉してくれて,フラッシュをたかないという条件で博物館の人立ち会いのもとに,龍泉窯のみ写真を撮らせてもらいました。

また,ここには,焼き物以外に引き上げられた胡椒だの,食べ残し?の桃の種だの「さいころ」だのも展示してあって,当時の船員たちの生活の様子がわかるようになっています。圧巻は,引き上げた舟自体再現して展示しているところ。想像するだけだった元の舟が半分ですが実物を見られたのは感激。ものすごく大きな舟だったんです。ということでほぼ満足。


龍泉窯三足香炉


第2目的地 木浦海底遺物展示館

これが船本体(復元中)相当大きい!

その引き上げの様子*

新安沖遺物の絵葉書


展示の様子(龍泉窯)


図録

引き上げられた中国青磁*
康津(カンジン)

 博物館の食堂で昼食後,次に向かったのが康津。木浦から1時間あまりの行程。ここは高麗王朝の官窯が設置されていたところで,青磁博物館があります。ここは,ごく初期の青磁が数多く展示してあります。ごく初期の高麗青磁は,中国越窯のTTを受けて開かれたもので,初期のものは越窯そのものといってもよいくらい中国の香りがするものなのです。つまり,龍泉窯と初期高麗青磁は,どちらも古越窯の技術をベースにしていますから兄弟窯といってもよいわけです。高麗青磁といえば,象眼で鶴や菊の模様が入ったものが多いのですが,破片も含め,初期ものはじつに中国してました!また,窯跡から出た,破片などもかなり大量に展示されていました。ここも,完全に貸し切り状態。


日本の田舎のような康津

窯跡

 その後,近くの窯元へ。製造工程やお店を見学。象眼の製造工程が実におもしろかったです。ここは,もっとじっくり見たいところでした。
窯元というのはどこでもそうですが,山で薪が豊富にあること。運搬のための川があること。良い土があること。が条件ですので,どこも山の中ですね。









高麗青磁



康津青磁博物館

高麗青磁 かんにゅうの入り方が,龍泉のよう。欲しい!


例によって貸切状態!

高麗青磁の香合
こまかい象嵌が美しいですね。
最終日(中央美術館は新装なっています)
■ ソウル国立中央博物館
 最終日,ソウルに移動した後,金浦空港に荷物を預け,初日に骨董屋さんで時間をかけたためにいけなかった国立中央博物館へ・・・
 予想通り,新安ものは展示されていませんでしたが,高麗,李朝ものの青磁白磁の名品が多く,発色,作りともに隙のない実にすばらしいものがおおかったです。どうも,高麗の壺というといつも大阪の東洋陶磁美術館で,唐物を見た後に行くので印象が薄くなってしまうのですが,これだけ国宝級のものを一度に見るとその力強さにあっとうされます。もし新しい建家が完成し,新安ものが常設展示されたらまた来よう!とおもったのでした。あと5分・・・といって見ているうちに本当に時間がなくなり,荷物を預けてあった金浦空港から仕方なくタクシーで仁川新空港までいきました。(あぶないところでした)


ということで,駆け足でしたが,青磁三昧の韓国の顛末でした。
韓国といえば,以前の香港と同様来る日本人のほとんどはブランドものの買い物。初日に泊まったホテルも日本人ばかり。また,本屋を見る時間がほとんど無かったのですが,博物館のショップにもあまりちゃんとした青磁の図録などはなく,これは残念。

実は,中華料理は蛇だろうと昆虫だろうとまず大丈夫なのですが,キムチが苦手!
日本料理屋にはいっても,サービスのキムチセットが10皿くらいでてきて,辟易!
インドのカレーも2日〜3日目でギブアップしそうになりましたが最後は克服し,帰る日はもうカレーが食べられないのかと残念に思ったほどなのですが,キムチはその域まで達していません。当分キムチはいいやという感じです。


ソウル中央博物館

中央博物館の図録(日本語)


静嘉堂にあるような南宋官窯*
これはソウル所蔵なのでしょうか?
結局見ることができませんでした。

      *1983年東京国立博物館の図録より